大分地方裁判所 昭和43年(ワ)577号 判決 1971年4月09日
主文
被告は、原告幸峰人に対し金一、一二四、九四〇円、その余の原告ら三名に対し各金六一六、六二六円およびこれに対する昭和四三年一月二二日から完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。
原告らその余の請求を棄却する。
主文第一項は原告峰人において金三〇〇、〇〇〇円その余の原告ら三名において各金二〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮りに執行することができる。
訴訟費用はこれを三分し、その一を原告ら、その余を被告の負担とする。
事実
(申立)
原告らは、「被告は原告幸峰人に対し金一、八〇〇、〇〇〇円、同幸義隆、同光信、同寿美に対し各金一、〇三三、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年一月二二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
(原告らの請求原因)
一 被告は耐火レンガの原石の採取、販売を業とするもの、訴外幸君子は被告の臨時雇として働いていた者であるが、昭和四三年一月二一日午後一時三〇分頃津久見市四浦三四三六番地貝の浦作業所において被告の従業員藤沢正美の運転する小松ハフペイローダに轢れ死亡した。
二 右の事故は訴外藤沢が被告所有のエアーブレーキ式小松ハフペイローダを運転するに当り、無資格かつこれを操縦するに当つてはブレーキを操作する圧縮空気が所定気筒に充填されているかどうかを確認すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り操作したため、たまたま圧縮空気がなくなつていた該車はブレーキがきかず、そのため、ジヤミ割り作業に従事中の前記訴外君子を轢き、間もなく心臓部打撲、肋骨骨折等により死亡させるに至つたものである。
ところで、本件事故は前記藤沢が被告所有の車両を用いて会社の業務に従事中惹起したものであるから、自動車損害賠償法第三条または民法第七一五条により被告は原告らが蒙つた損害を賠償する義務がある。
三 (損害)
(一) 亡君子の逸失利益
亡君子は死亡当時四一年であつたが、昭和四二年六月一六日より被告の臨時雇として作業に従事し、平均月額一四、〇〇〇円を得ていたが、本件事故がなかつたならば、今後二二年間は就労が可能であつた。そこで同人の逸失利益は生活費月額六、〇〇〇円を控除してホフマン式により中間利息を控除し金一、四〇〇、〇〇〇円となる。
(二) 亡君子の慰藉料
同人が受傷後死亡までに受けた精神的苦痛に対する賠償として諸般の事情を考慮し金一、〇〇〇、〇〇〇円を請求する。
(三) 右各損害賠償請求権の相続
訴外君子は原告峰人の妻で、その余の原告ら三名の母である。よつて右(一)、(二)の各損害賠償請求権を君子の死亡とともに、原告峰人においてその三分の一である金八〇〇、〇〇〇円、その余の原告ら三名において各九分の二の割合である金五三三、〇〇〇円の限度においてそれぞれ相続した。
(四) 原告らの慰藉料
原告峰人は亡君子と昭和二三年三月五日に婚姻し、事故に至るまではその余の原告ら三人の子供とともに幸福な家庭生活を営んできた。そこで、諸般の事情を考慮すれば、妻を失つたことにより原告峰人の受けた精神的損害は金一、〇〇〇、〇〇〇円、母を失つたことによりその余の原告らの受けた精神的損害は各金五〇〇、〇〇〇円が相当である。
四 結論
よつて、被告に対し、原告峰人は合計一、八〇〇、〇〇〇円、その余の原告ら三名は各金一、〇三三、〇〇〇円の各損害金および右各金に対する本件事故の翌日である昭和四三年一月二二日より完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の答弁および抗弁)
一 請求原因に対する認否
第一項は認める。
第二項前段は訴外藤沢の無資格操縦、訴外君子がジヤミ割り作業に従事中であつたとの各主張事実は否認し、その余の主張事実は認める。同項後段は争う。
第三項の(一)は亡君子が被告の臨時雇であつた事実は認めるが、その余の主張は争う。同項(二)、(三)の数額は争う。
同項(三)の原告らと君子との身分関係は認める。
二 反対主張および抗弁
(一) 本件については自賠法の適用はない。
本件の小松ハフペイローダはバケツト容量〇・九立方メートルであつて運転免許は不要であり、かつ、被告会社の作業場内でのみ運転されているので道路運送車両法第二条第五項により自動車登録より除外されている。したがつて、本件については自賠法の適用はない。
(二) 被告は操縦手の選任、監督に過失はなかつたから、民法七一五条の責任は負わない。
(三) 過失相殺の抗弁
亡君子は他の工員らと立話に夢中であつた余りに本件小松ハフペイローダの発した警笛や操縦音に全く注意を払わなかつたために避けることができず、本件事故に遭遇した。よつて、仮りに被告に責任があるとすれば、右被害者の過失との相殺を主張する。
(四) 弁済の抗弁
原告らに対しては本件事故に対して、(イ)労災保険より遺族年金保証費として昭和四三年度額より昭和五一年七月三一日までの間に合計金五二八、七〇二円が支払われることと決定した。(ロ)同じく労災保険より昭和四三年二月二一日葬祭料金四八、五六〇円が給付せられた。(ハ)被告は昭和四三年一月二五日葬祭費として金一四八、九〇〇円を、同年四月一九日弁償金内金として金一八〇、〇〇〇円をそれぞれ支払つた。
(原告の被告主張の抗弁に対する認否)
前記被告の弁済の抗弁はすべて認める。
(証拠関係)〔略〕
理由
一 被告が耐火レンガの原石の採取、販売を業とするもの、訴外幸君子が昭和四三年一月二一日午後一時三〇分頃津久見市四浦三四三六番地貝の浦作業所において被告会社の従業員藤沢正美の運転する小松ハフペイローダに轢れ死亡したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二 右の事故は、訴外藤沢が被告所有のエアーブレーキ式小松ハフペイローダを操縦するに当つてはブレーキを操作する圧縮空気が所定気筒に充填されているかどうかを確認すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、操作したため、たまたま該車は圧縮空気がなくなつていてブレーキがきかず、そのため附近にいた君子を轢き、同人は間もなく心臓部打撲、肋骨骨折等により死亡するに至つたものであることは当事者間に争いがない。
三 そこで自賠法の適用の有無について判断するに、〔証拠略〕によれば、本件小松ハフペイローダは道路運送車両法第三条、同法施行規則第二条別表第一にいわゆる大型特殊自動車中のシヨベル・ローダに該当するものと認められるので、自賠法の適用を肯定すべきである。被告が主張するような本件車両に運転免許を要するか否か、本件車両が登録を要するか否かは、自賠法の適用の有無を判定するに当つては関係がない。
四 よつて、本件事故については、被告は自賠法第三条にしたがい、運行供用者としての責任を免れない。
五 そこで、損害額の点について検討する。
(一) 亡君子が被告会社の臨時雇としてジヤミ割作業に従事していた事実は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、亡君子の昭和四二年七月より同年一二月までの平均賃金は月額一三、六七八円であつた事実を認めることができる。そして、〔証拠略〕によれば、亡君子は大正一五年四月一日生れで事故当時満四一年であつた事実を認めることができるから、経験則に照せば、今後二〇年間は同程度の作業に従事し同額の収入をうることが可能であつたと認めるべきである。そして、〔証拠略〕によれば、君子の生活費は月額五、〇〇〇円であつたというけれども、右は、経験則に照し、低額にすぎるので措信できず、少くとも月額八、〇〇〇円程度は要するものと認めるべきである。よつて、君子の二〇年間の逸失利益はこれをホフマン式(月別法定利率)により中間利息を控除して算出すれば金九四三、一四七円となる。
(二) 亡君子の慰藉料。
〔証拠略〕によれば、亡君子は、本件事故当時夫である原告峰人との間に高校三年、中学三年、小学三年各在学中のその余の原告ら三名の子女をかかえ、一家の主婦としての仕事のほかに家計の不足を補うために働きに出ていたもので、一家に欠くべからざる存在であつた事実を認めることができる。その他本件記録によつて認められる諸般の事情を総合すれば、同人が受傷後死亡までに受けた精神的苦痛に対する賠償額は金一、〇〇〇、〇〇〇円を以て相当と認める。
(三) 原告らの慰藉料
前認定の事情その他諸般の事情を総合すれば、妻君子を失つたことにより原告峰人の受けた精神的損害は金八〇〇、〇〇〇円、母を失つたことによるその余の原告ら三名の精神的損害は各金四〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。
(四) 過失相殺の抗弁について。
被告は亡君子と立話に夢中であつた余りに本件車両に全く注意を払わなかつたと主張するけれども、右事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、〔証拠略〕によれば、君子らは所定の作業場所においていつでも作業ができる用意を整え、加害車の来るのを待つていたところ、車はいつもの所定位置に停止することなく、突然君子らの方に突き込んできたものであつて、同人らの全く予測できない事故であつた事実を認めることができる。よつて右被告の抗弁は採用できない。
(五) 弁済の抗弁について。
原告らは本件事故に対して、被告ら主張(イ)の労災保険による遺族年金保証費として合計金五二八、七〇二円の支給決定を受け、同(ハ)の弁償内金として被告より金一八〇、〇〇〇円の支払を受けたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。なお、被告は(ロ)、(ハ)の各葬祭料または葬祭費の弁済を主張するけれども、右は亡君子の葬祭に要した費用の実費に充当すべき性質のものであると認めるべきであるから、原告らにおいて右費用額を請求しない本件においては、右弁済金を本件賠償額から控除すべきでない。
したがつて、前記(一)、(二)の亡君子の損害額合計金一、六八三、五二二円から前記弁済金合計七〇八、七〇二円を控除した残額金九七四、八二〇円が亡君子の損害額である。
三 結論
ところで、前記君子の損害賠償請求権を同人の死亡により原告峰人においてその三分の一である金三二四、九四〇円、その余の原告ら三名において各九分の二である金二一六、六二六円の割合で相続したというべきである。
よつて、被告は原告峰人に対し金一、一二四、九四〇円、その余の原告ら三名に対し各金六一六、六二六円および右各金に対する本件事故の翌日である昭和四三年一月二二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、右の限度において本訴請求を正当として認容し、その余は理由がないので棄却し、民訴法第八九条、第九二条、第九三条、第一九六条にしたがい、主文のとおり判決する。
(裁判官 高石博良)